2013年10月2日水曜日

岩石分類の 補足:岩石の変質

各岩石の説明の前に、ちょっと思いついて、話のおまけを。 少し余分な話かもしれませんが。

  「緑色岩って聞いたことあるけれど、分類の表のどこに入るの?」 とか、実際の石を手にすると,いろいろ疑問が出てくるものです。「これから書いていく解説文の中で書けばいいじゃないか」と言いたいところですが、それもどうかと・・・
というわけで、少しページを割いてみました。
  
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


<岩石の変質>

角張った石の混じった石で名前は「凝灰角礫岩」なのだけれど、色がなんだか変。緑色がかっているのです。これはどうして?・・・・あとから緑色に変化した・・・

凝灰角礫岩


緑色の色の水がしみこんだ?いえいえ「緑色の鉱物が、あとからできた」からです。
あとからできたという緑の鉱物は、この場合は緑泥石かと思います

輝緑凝灰岩・緑色岩
というわけで、「凝灰角礫岩だけれど、少し変質した石」になります。
もう一つは,緑色岩といって、昔の火山噴出物(溶岩や火山灰など)が変質したもの。これになると、もとがどんな石か、わかりにくい・・・。

岩石は、長い間には、それぞれ異なった環境に置かれます。地表近くで雨風にさらされるものもあります。地下で300℃とかいった熱水にさらされたり、圧力を受けたり、もみくちゃにされたりしたものもあります。
そんな時、岩石の成分が水や熱水に溶けたり、水や熱水の中の成分が沈着したり、多少の熱にさらされて堅さや成分に違いができたり。そこでは化学変化が起き、新しい鉱物ができたりと、さまざまな変化がおこるのです。
 
非常に大きな変化で、もとの岩石と大きく異なってしまえば、変成岩になるわけですが、それほどでないときは、「変質」と呼びます。正確に言えば、地表や地殻(地球の表面部分)の浅い所での水の影響による変化を「変質」とよぶとのことです
熱水以外にも上にあげたように、さまざまな影響を受け、様々な顔つきの石ができてくるわけです。
  

こうして石は、緑色をおびてきたり、いろいろな鉱物が沈着したりと、顔つきもだんだん変わっていきます。
歴史・経験を経ると,最初の顔とはちょっとちがった、それぞれその歴史を刻み込んだ顔つきになるわけ。人間も同じかなあ・・石のほうが変化が激しそう・・・
   ますます見分けが難しくなりそうな気がしてきそうで、困ったものですが。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

石も、水浴びしたり、お風呂や温泉に入ったり、煮物にされたり、焼かれたり、深くに埋められたり、ぎゅっと押されたりと、さまざまな歴史で変化していくというわけ。時にはまったく違う岩石になって、変成岩といわれたりもする、という話でした。

                     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
<変質の例>
大谷(おおや)(いし)

昔の海底火山の噴出物が固まった石。変質で緑色になっていますが、永い間雨風にさらされると、だんだん緑が薄れていきます。栃木県大谷でたくさん切り出されてきました。
穴ぼこは軽石だったところだそうで、早くから茶色に変質して柔らかくなり,抜け落ちていきます。塀によく使われました。昔の倉庫にも使われた石です。栃木県の大谷が産地なので、大谷石。岩石学的な名前は,軽石質の凝灰岩になります。最近、採掘跡の空洞が陥没したりして,問題になったりもしています・・・

   
    大谷石の倉庫(下仁田町)

大谷石の塀


  砥沢(とざわ)()の砥石・・流紋岩という、マグマが冷えて固まった石からできたもの。熱を受けて少し変質し、こまかい結晶で加工しやすい石になっています。
岩石名は,流紋岩になります。鏑川の川原の白い石には,この仲間の石があります。
   

  (くぬぎ)石・・南牧村に産する石材です。安山岩ですが、変質して白っぽく加工しやすい石に変質しています。細粒の火山灰の固まったような感じに見えています。コンニャクの製造過程で,この石でつくった臼を使い、水車を動力として干したコンニャクを粉にしたそうです。ふるさとセンターの入り口に石臼になって置かれてありました。
自然史館にも展示してあります。

  温泉地にいくと、石や土が白くなっている時があります・・・黒っぽい鉱物は変質の過程でなくなっていき、変化しにくい二酸化ケイ素の成分(白い色)が残るための現象です。


<補足の話> ・・・・・・・・・・・・・・

水の温度は沸騰しても100℃以上にはならないのでは?


  →水が100℃で沸騰するのは1気圧(普通の地上)の時で、このとき水の温度は100℃より高くなりません。しかし圧力がもっと高い時は、もっと高い温度で沸騰します。ですから地下や海底では300℃の温度の熱湯・温泉というのもあり得るわけです。当然、圧力が1気圧より低ければ、100℃より低い温度で沸騰します。気圧が低くなる高山では、水は100℃にならずに沸騰します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<岩石の風化>

野外での岩石は苔むしていたり,表面がボロボロしていたり、何だかよくわからない石だったりします。ハンマーで割って見ると、ボソッと割れたり、表面と内部がちがった色だったりします。この場合、内部のものがもともとの石で、表面近くの色の変わった部分は「風化」した部分です。
雨風にさらされているうちに砕け、化学変化がおこり、あの硬い石も変化していって、だんだん土のような色になってきたり、粘土のようになってきたりもします。柔らかくもなり 「石がくさった」 などといわれます。
だから地質調査の人たちは、必ず、ハンマーで石を割って見ていますよね。
腐っていない「新鮮な石」を求めて。
川原の石はたいてい新鮮です。観察するとき,ハンマーで割らなくても,見ることができますね。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

ここで再び、宮沢賢治に登場してもらいましょう。
  以前にも『岩頸』の話で紹介した,「楢ノ木大学士の野宿」という作品から

地下深くでうまれたカコウ岩に含まれる鉱物たちが話しています・・・
登場人物は クオーツさん(石英)
        プラジョさん(プラジオクレース 斜長石)
        オーソクレさん(オーソクレース 正長石)
        ホンブレンさん(ホルンブレンド 角閃石)
        バイオタさん(バイオタイト 黒雲母)

  角閃石と黒雲母がケンカしています。
        
「そんなに肱を張らないでお呉れ。おれの横の腹に病気が起こるじゃないか」
「おや、変んなことを云ふね、一体いつ僕が肱を張ったね。」
そんなに張ってるじゃないか、ほんとうにお前この頃湿気を吸ったせいかひどくのさばりだして来たね」
「おやそれは私のことだろうか。お前のことじゃなからうかね、お前もこの頃は頭でみりみり私をおしつけ様とするよ」
「何がひどいんだよ。お前こそこの頃すこしばかり風を呑んだせいか、まるで人が変わったように意地悪になったね。」
  
     ・・・・・・・中略・・・
「さうかい、そんならいいよ。お前のやうな恩知らずは早く粘土になっちまへ。」
      (どうやら石が地上に出て,風化がはじまっているようです)

「一寸お待ちなさい。あなた方は一体何をさっきから喧嘩しているんですか。」
新しい二人の声が一緒にはっきり聞こえ出す。
「オーソクレさん。かまはないで下さい。あんまりこいつがわからないもんですからね。
「双子さん。どうかかまはないで下さい。あんまりこいつが恩知らずなもんすからね」

「まあ、静かになさい。僕たちは実に長い間堅く堅く結びあってあのまっくらなまっくらなとこで一緒にまはりからのはげしい圧迫やすてきな強い熱にこらえてきたではありませんか。一時はあまりの熱と力にみんな一緒に気違ひにでもなりさうなのをじっとこらえて来たではありませんか」

しばらくして今度は黒雲母が泣き出します。
「ああ、いた、いた、いた、いた。、痛い、いたい」
「バイオタさん。どうしたの、どうしたの。」
「早くプラジョさんをよばないとだめだ。」
「ははあ、プラジョさんというのはプライオクレースで青白いから医者なんだな」
大学士はつぶやいて耳をすます。
「プラジョさん、プラジョさん。」
「はあい」
「バイオタさんがひどくおなかが痛がっています。どうか早く見てください。」
「はあい。なあに別段心配はありません。風を引いたのでせう。」
「ははあ、こいつらは風を引くと腹が痛くなる。それがつまり風化だな」

大学士は眼鏡をはづし、半巾で拭いて呟く。
「・・・・お前さんの体は大地の底に居たときから慢性りょくでい病にかかって大分軟化してますからね、どうも恢復の見込みがありません。」

「さやう、病人が病名を知らなくてもいいのですがまあ蛭石病の初期ですね。俗にかぜは万病のもとと云いますがね。」

「プラジョさん、プラジョさん、しっかりしなさい。一体どうなすったのです。」
「うむ、うむ、実は私も地面の底から、うむ、うむ、大分カオリン病にかかっていた、うむ、オーソクレンさん、オーソクレンさん。うむ。今こそあなたにも明かします。あなたもちょうど私同様の病気です。うむ」  (カオリンは粘土をつくる鉱物の一つです)

このプラジョさんの告白を聞いて
「ずいぶん神経過敏な人だ。すると病気でないものは僕とクオーツさんだけだ。」
  といったのはホンブレンさんこと角閃石。しかし斜長石医師は答えます。
「ホンブレンもバイオタと同病。」
  今度はクオーツこと石英がいばって云います。
「おや、おや,どなたもずいぶん弱い,健康なのは僕一人。」
  ふたたび斜長石医師が告げます。
「うむ、うむ、そのクオーツさんもお気の毒ですがクウショウ中の瓦解が病気です。うむ。」
 かくして,みんな病気だと知った鉱物たちはいっせいに泣き出してしまいまう。
「あ、いた、いた、いた、いた、た、たた。」


こうしてかこう岩も変化して、さらに,温度差なども影響して、細かく砕けてもいくのでしょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”慢性りょくでい病”は、緑泥石化作用のこと。鉱物が,温泉のようないろいろな成分を含んだ高温の熱水によって、緑泥石に変わってしまう作用です・・・・・
緑色になってくる・・・岩石が地下で受けた作用です。賢治は「大地の底にいたときから」と、ちゃんと書いています。。
ページの最初に取り上げた石の緑色は,これのことですね。

蛭石は、黒雲母が熱水の作用や風化をうけて生じると言われるものです。園芸用の土のバーミキュライトはこれを利用してつくるようです。

カオリン・・・これも、長石から変化したもの。焼きものの粘土になります!これがたくさん含まれているほど、良質の焼き物の土になるそうです。風化は岩石を腐らせて,いやなやつというイメージですが、これのおかげで,焼き物ができるのかあ・・と思うと、ありがたい話になります。地下で熱水の作用をうけたり、水底にたまったりしてできます。

セキエイは風化で変化したりはしないのですが、「クウショウ」でくずれていくと・・・クウショウって、「空晶」とかきます。鉱物の中にできた小さな空洞のこと。

変質・風化を病気たとえているところが何とも楽しいです。
それにしても、豊富多彩な知識を持っていた人なんだなあ、と思わずにいられません。

0 件のコメント:

コメントを投稿