2016年8月21日日曜日

増額720億円・・再び八ッ場ダムについて

地質学はどうやって発展したか・・・そんなこと、地質を勉強する学生が授業で聞かされる話で、関係ない,と思われるでしょう。でも、なんだか、そんなことが、ふと思い浮かびました。

八ッ場ダム いったい いくらかかるのか

土木工事と地質には深い関係があります。お盆シーズンの8月12日、現在建設工事中の八ッ場ダムの事業費が720億円増額と報道されました(オリンピックとお盆で、ニュースが目立たない時期をねらったかな)。
最初は2110億円の予算ではじまったダムは,2004年に4600億円に増額されて非常に高価なダムとなり、更に今また増額です。5320億円となりました。
 増額分の半分は安全対策。もろに地質が関係した話です。

ここでなぜ地質学の歴史が頭に浮かんだか・・・
 近代地質学は産業革命とともにイギリスで発展しました。蒸気機関の発明で人力から機械による動力が開発されましたが、それを動かすエネルギー源は石炭。鉄の利用も増え,それらを手に入れる鉱山開発が求められたわけです。当てずっぽうに掘っても見つかるわけはないわけで、そこで地層についての考察が深まるわけです。18世紀後半から19世紀にかけての頃、地質学の基本中の基本、「地層累重の法則・示準化石による地層同定の法則」などが確立されました。これに大きく寄与したウイリアム・スミス(1769~1839)という人は、農民出身の土木技師で、測量技師として石炭を運ぶ運河の建設に携わったりしていたという人です。その中で、特定の化石が特定の地層から見つかることに気づきました。そこから示準化石というもの,この化石が見つかると化石を含んでいる地層の時代が決定できる、を確立しています。当時はまだ、化石は聖書にあるノアの箱船の洪水でおぼれ死んだものだと言われていた時代です。学会からは、彼の身分からして受け入れてもらえなかったという話もあるような時代でした。

 こんなふうに、地質学はもともと、人間の産業・技術と密接な関係を持って発展したわけです。産業の現場は地質学と手を携えているはずです。
でも八ッ場ダムは、建設をすすめたいばかりに、また現代の土木技術の進歩の名の下に,自然を甘く見てこなかったのか・・・そういえば、フクシマ原発の汚染水対策の凍土壁、1%ほどが凍っていない,そのために地下水流入は止まらず、延々と汲み上げ続けているという。汚染水が地下に流入しているという話も。先日報道されていました。凍土壁にはすでに350億円の国費が投入されているという。1%・・・でも,水は「水も漏らさぬ」状態でなければ,漏れてしまうのですよね・・・地下水関係の人が「そんなのできるわけない」といっていたなあ・・何度も「協力依頼・フクシマで働いてほしい」がきていたけれど、「よっぽどやる人がいないんだな」と。もちろん、行かない・・

ッ場ダムにもどります。
増額の720億円の内訳です。
  長年にわたり八ッ場ダムを報告し続けてきた八ッ場あしたの会では、以前から工事費増額を予想していましたが,その額は500億円。その予想さえ上回るとは・・・・
         ★マークが安全対策費です。

 ・ 埋蔵文化財対応等  88億円・・・・ここでは豊富な遺跡が見つかっているのです
 ★ 地滑り対策      141億
 ★ 地質条件の明確化   202億 ・・・はじめて入った項目。 何のこと?                 日経新聞は地質の見込み違いと表現しています
 ・ 公共工事関連単価の増額  233億 ・・フクシマや東京五輪で資材も人件費も高騰など。これを強調して、増額やむなしといった論調の新聞もあったようです。

はじめて入ったという「地質条件の明確化」、上毛新聞は「ダム本体建設場所の地質が明らかになり、基盤強化費用などとして202億円」と書いていました。日経新聞と赤旗が「計画がずさん」という表現を。他紙でも「岩盤の堅さや地盤のもろさが明らかに」など。
要するに、本体工事設計変更ということ?はじまったというダム本体工事がなかなか進んでいない様子は、これが原因なのでは。本体コンクリート打設は、はじまったと伝えられてはいますが、あまり進んでいる様子がないらしいので。

本体工事現場。岩盤が赤茶、灰色、黒と、さまざまな色あいに。もともとこの付近には,温泉熱水変質帯があり、国道に近い場所でも、切り取った岩盤がさまざまな色あいに変色していました。また岩盤に後からはいりこんだ岩脈が見られ,
それには節理((割れ目)も見えています。    写真は八ッ場あしたの会HPより
でもね、たしか、現在のダム本体工事現場は地質が悪いからと、もっと下流に変更したのに,またもとに戻したと聞いたことがあるのですけど。吾妻渓谷の見どころを多く残すため・・だったかな、ちょっと記憶があやふやですが。
       

工事費用の変遷を少し並べてみます。
        事業費  地滑り対策 
 当初     2110億円  49.17億円(3地区)
2004年    4600億        5.82億 (3地区)
2011年試算          109.7億  (11地区) 新たな項目・代替地安全対策約40億円
  (民主党政権)                       (5地区)             

2016 年    5320億    141億      新たな項目・地質の見込み違い202億円

加えて言えば、これだけで済む保証はどこにもない。
ダム湖に水が溜められたとき、ダム湖のまわりに作られた代替地に地滑りがおこらないかどうか、何の保証もない。何しろ、50m以上もの厚さの盛土もある代替地です(こんな厚い盛土、経験ないのでは)。湛水をはじめたとたんに周囲が地滑りを起こしたダムもあります。何が起こるかわからない。技術の力で何とかできるとおもっているのでしょうか。   いえ、技術と金の力で・・・。もちろん、何も起こらないことを祈っています。

ダム本体の費用の変遷も並べてみます。
 1986年  495億円
 2004年  613億   ・・・・・道路工事などに膨大な費用を使ってしまったので、
            コスト削減を
求められたような・・・2008年には減っています
 2008年  429億
 2016年の計画変更案  約200億円の増額ということか

 ダムの本体基礎掘削  深さは最初18m、2008年に約15mに 現在は3mとなっている
         基礎掘削量は   149万m3 が 60万m3
         コンクリート量は  160万m3 が 90万m3

実はダム本体の費用は全体の工事費の1割以下。 
ではいったい、多額の費用はどこに行ったのでしょうか。「生活再建関連工事」「補償事業」などの名称,あるいは「治水・利水の費用」ですが,何だかよくわからない。具体的に言えば
 水没予定地の道路、橋、鉄道付け替え工事など。ちょっと金額を書いてみます

国道付け替え工事(草津に行くとき通る,あの長いトンネルのある道路です。)
 691億9700万円  
    ただし八ッ場ダム事業からは408億円 
        水源地域整備事業から 283億9700万円
    お財布がひとつではなかったのですね。地滑りが起こっていますから,その工事に,
    これからもお金がかかり続けそうです。


付け替え県道工事 (国道の対岸にも,トンネルのある立派な道があります)
   468億7800万円   
        八ッ場ダム事業からは 363億円 
        水源地域整備事業から 105億7800万円
         (書き忘れてました。この道路もまだ完成していません。現在の川原湯温泉駅近くが
     いまだに工事中。ずっと前から、工事が続いています。どうやら崖が崩れやすいような・・・)


まだまだあれこれの工事があるわけです。
JR付け替え工事も延々とトンネル・・・いったい、いくらかかってる?

八ッ場ダム計画には3つの財布があるのだそうです
   建設事業         4600億円  これがいつもでてきた数字です
   水源地域整備事業   約1000億円
   利根川・荒川水源地域対策基金事業(事業費未定)
  
 あまりの桁数の大きさに、目が回ってしまいます。見慣れない数字なので、もしかして、書き間違っていないかと,心配になってきました。わが家の家計もどんぶり勘定でちゃんとできない人間にとっては、まったく異質の世界です。

でも,これ、打ち出の小槌に見える人たちもいるんだろうな。
ちなみに、地元の人で,今、代替地に住んでいる人は、あの土地を,あの地域としてはとんでもなく高い値段で買わされています。もともと土地を持っていて,その補償金のある人以外は、手を出す気がしないような・・しかも、有害な鉄鋼スラグが埋まっているのではなどと、心配の種も出てきている土地です。

現地再建ずり上がり方式で、集落ごとに代替地に移転する予定でしたが、今年3月末で、全水没予定290世帯のうち移転したのは56世帯。多くの人があの土地を離れました。

     → 八ッ場ダム増額に関する資料の載っているURLを教わりました。
    「関東地方整備局における公共事業の評価」の中の資料になります。以下です。
       工事内容が詳しく記されています
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000653410.pdf

  (この中では家屋移転が470世帯で468世帯が移転済、代替地には86世帯が移転となっています。
  移転にあたっての取り上げた範囲が 上に記載のものと少し異なるからと思います。
   いずれにしても、代替地移転は少ないですね・・・)

地質の悪さも、地滑りも、どれも何年も前から繰り返し繰り返し訴えられていたことです。裁判の場でも述べられていたことです。しかし、まったく意に介されずに来ています。地質学,土木地質からの言葉も,宙を舞っているだけなのでしょうか。金と権力で,いくらでも押さえることができるとたかをくくっているのでしょうか。
自然の声に耳を傾ける謙虚さなど考えもしないかもしれませんが、自然は人間の都合など,それこそ、意に介さないでしょう。

これらのデータは 八ッ場あしたの会のHPを見ながら書きました。マスコミの報道も丹念に集め、情報開示請求で公開される資料は手に入れ、とぎれることなく情報を発信しています。頭が下がります。

ネットでちょっと調べていたら、こんなページに出会いました。そう言えば以前、この方の解説図をブログで使わせてもらったことがあったなあ。
  岩松 暉  「地質リスクの軽減と地質地盤情報」
      不十分な事前の地質調査に起因して,工事期間の延長や余分な経費が
      かかったりした例が列挙・・・・丹那トンネルが取り上げられていました。
      地質のことなど考慮なく決めたルートですが・・温泉変質が激しい所・
      活断層帯を平気で横断するルート・地下水が豊富 というわけで、
      落盤や出水、工事中に地震により断層ができトンネル穴がずれたり,

      死者もかなりでる難工事に。
      

   いくら技術が発達しても、人はおごってはいけないでしょう。

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 頭の痛くなるような話になってきました。
8月、川沿いで見かけた花を紹介しましょう。
冷たい渓流のわきの道沿いに、イワタバコがたくさん見られました。

イワタバコ 湿った岩肌に


イワタバコです
白い花もありました


ボタンヅル 平地でも見かけます





コバギボウシ 山菜のウルイはオオバギボウシだそうです
 
白い花はシシウドと思って帰ってきたのですが、ちょっと待てよ・・・こういうセリ科の植物はたくさんある。オオバセンキュウ、シラネセンキュウ、アマニュウ・・・違いもあまりよく知らないまま。たくさんあるのに・・・
 
 
これ、何だか知っていますか?葉っぱの真ん中に,実がついている!!
葉っぱの真ん中に花が咲くのは・・・ハナイカダ。
ハナイカダの実です。見たのは下仁田ではなかったけれど、案外そこらにあるかも。
ちょっと楽しい実です。 名前もいいねえ。

 

3 件のコメント:

  1. 読ませていただきました。
    公共事業の鉄則は、「小さく生んで大きく育てる」といわれ、当初計画より大きなものにして、たくさんの予算をつかっていく、というのが常套手段だということもいわれています。
    いずれにしても事業化されれば、それが時代状況に合おうと合うまいと、どこまでも突き進んでいくのが公共事業です。
    昭和の三大バカ査定といわれる査定のひとつ、戦艦大和の建造も時流を見間違え、大鑑巨砲という前時代的な発想で事業化され、すぐに沈められてしまいました。
    ダム事業はムダではないかという考え方、そういった声に耳を傾けて、八ッ場ダム事業を慎重に検討していれば、こんな事態に陥ることはなかったかもしれませんね。
    いつものことですが、とても勉強になる和田さんのブログです。
     ※ イワタバコの画像、きれいに撮れましたね。

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  2. いつも楽しく読んでます。以前、草津温泉 に行く途中、八ッ場ダム予定地を過ぎた辺りの電車の窓から確か左手の山側に、大きな岩が見えました。確か名所として「ナントカ岩」と名もつけられていたけど、あれって節理ですよね。でっかい柱状節理が顔出してると皆で話したの思い出しましました。そういう、私のような素人でも、なんかありそうと思わせる場所ですよね。

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  3. 川原湯の旧国道沿い2本の安山岩岩脈・昇竜岩と臥龍岩、国指定の天然記念物になっていましたね。岩脈の伸びの方向に直角方向の節理も入っていました。本体工事現場と同じタイプかな。 それにしても、湯水のように税金を使わないでよ、といいたくなります。借金大国なのに。使えたはずの所にお金がまわらなくなるのだし。

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