2013年12月3日火曜日

火山岩の中の結晶

 
はじめにちょっと、お知らせ
 
<地形模型>
下仁田の自然史館には、手作りの地形模型が飾られています。下仁田駅付近の、クリッペや中央構造線の見える地域です。下の写真の2番目のものです。 
下仁田自然学校の高橋さんがつくり、細谷さんが地質の違いごとに色づけしてくれたもので、厚紙を重ねての、本当に緻密な作業の作品です。
 
さらに今、荒船山を含む地域の模型を作成中で、色付けを除き、仕上がりました。下の写真です。なかなか迫力があると思いませんか。
今回はスチレンボードを使用してみたそうです。1年以上前からコツコツと作業されていたということですが、これから畑の梅の選定作業があるので、春近くなってから色をつけるそうです。
地形図の等高線に沿ってボードを切り抜いていくわけですが、「ああ、この谷はこんなだったなあ」などと、一つ一つの場所が、地質調査で歩かれた時のことが思い浮かんできて、楽しかったそうです。
  お近くの方、展示されたらご覧になってみませんか。
 
 

 

岩石    <3>

          よくみられる鉱物など

 鉱物といったとき、なにが思い浮かびますか?
ダイヤモンド・ルビー・サファイア・エメラルド・水晶・・・・・これらも鉱物なのですけど・・・
 ミネラルフェアといった化石や鉱物の展示販売が盛況だったり、鉱物や石の装飾商品が街角に普通に売られたりしています。”パワーストーン”とかいって、身につけると,それぞれいろいろなパワーがさずかるとかいう話も,まことしやかに語られて販売促進に一役買っています。
知り合いの20歳代の女性が言っていました。「私、貧血気味で、そのお守りにヘマタイト買ったの」。たしかに、ヘマタイト(赤鉄鉱)は鉄を含む鉱物で、貧血対策には鉄が必要ですから。ま、遊びとしてはいいのかもしれませんけど。ちなみにダイヤモンドは「精神の明晰・悪霊をはらう」など、ルビーは「勝利を呼ぶ・情熱を高める」などとか。「霊感がさずかる・幸運を運ぶ」等で高額に売りつけるいかさま商売はやめてほしいですが。
 昔の王侯貴族の時代から、宝石には何か大きな力が宿っているといった話がついて回っていましたから、その焼き直しといったところでしょうか。
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2004年、メキシコのナイカ鉱山で巨大な結晶の乱立する空洞が姿をあらわしました。
そこに人が立つと,まるでガリバー旅行記の巨人の国にいったガリバーのようなシーンが展開されています。一見の価値あり。
雑誌やHPから写真を転載するわけにもいきませんので、まだごらんになったことのない方はネット検索してみてはいかがでしょうか。「結晶洞窟」の検索でみられますので。ジュール・ベルヌ(海底2万マイル、等の作者)のSFの世界にでてきそうな巨大な結晶が載っています。石膏の結晶だそうです。 

鉱物は世界中に4000種類以上もあるといいます。今でも「新鉱物発見」という記事を見たりします。
でも、そんな特別な鉱物ではなく,普通に見られるものについて,取り上げてみます。
学校の勉強的になりますが・・・・

   火成岩の中の鉱物
 
<造岩鉱物>
 
マグマが固まってできた岩石(火成岩)には、少し整った形のものが見えていることがあります。これは鉱物の結晶です。
右の写真は妙義山の溶岩です。黒い柱状のものが鉱物の結晶で,この場合の鉱物の名前は「輝石」。 (あまり輝いてはみえませんけど)

じつは火成岩をつくる主要な鉱物は限られていています。それを造岩鉱物といいます。
普通に見られる代表的なものは以下です。 

石英・長石(カリ長石、斜長石)・
黒雲母・角閃(かくせん)(せき)輝石(きせき)・かんらん石 

こんなに少しの種類なのかと、ちょっとびっくりします。
 

 
火成岩をつくる主な鉱物>  
 右端に英語でのよびかたをのせてみました。ほとんど聞いたことのない言葉ですが、よく見ると、知っているものもあるものです。
ペリドットはかんらん石が美しく宝石として扱われるときの名前。クオーツも聞いたことのある言葉かも。少し年配の方なら、ゼンマイ仕掛けの時計からクオーツ(水晶振動子)の時計に変わっていったときの、正確な時計としての「クオーツ」という言葉が思い出されるかもしれません。これ以後、それまで精密機械の技術の粋をあつめてつくられていた高価な時計が、安価な「雑貨」になっていった・・・・
雲母は風化すると蛭石(ひるいし)に変身するとか。それを焼いたりして園芸用に販売されているバーミキュライトをつくるそうです。安い値段で売られているバーミキュライトを大量につくるもとは、どんなのだろう・・・花こう岩の中の黒雲母の小さな粒が思い浮かぶ私には、どうにもイメージがわきません。どなたかきちんとご存知の方に教えていただきたいですね。

   以下は、宮沢賢治が学生として盛岡にいたころつくった短歌です。 
             公園の円き岩べに蛭石をわれらひろへばぼんやりぬくし
                 

                      
      < 主な造岩鉱物 >         ポプラ社 子供用書籍より改変
 
 石英  
  無色透明・硬い鉱物で風化されにくい。岩石中ではさまざまな形をした粒が見られる
 

クオーツ

斜長石  
(シャショウセキ) 
  白や灰色。光沢はあまりない。
岩石中ではさまざまな形をした粒が見られる

プラジオクレース
  カリ長石
  白色や淡い赤色。岩石中ではさまざまな形をした粒が見られる
カリ長石の一種の正長石    オーソクレース
  黒雲母   黒色の雲母。酸化した物は褐色。
  六角形の板状に薄くはがれる

バイオタイト
  角閃石
 (カクセンセキ) 
  黒色・黒っぽい緑色
  岩石中では平らで長い柱状
  普通角閃石では
  ホルンブレンド
  輝石
 (キセキ) 
  小さな粒は淡い緑、大きな粒は黒緑。岩石中では短い柱状、
  パイロキシン
  普通輝石ではオージャイト

カンラン石
  オリーブ色、酸化すると褐色。
  粒はコロコロしている。
  オリビン 
  (ペリドット)

この解説を見ると、角閃石と輝石は肉眼では見分けにくそう・・・
なお、これらの鉱物はさらに詳しく分けられています。複雑すぎて私には理解判定困難ですけれど。
 
  
 
<火成岩中の鉱物結晶の例 > (肉眼で見えるもの)
    安山岩の中の黒く四角い結晶・・・・・角せん石や輝石
・安山岩の中の白く四角い結晶・・・・・長石の仲間
・流紋岩の中のぽつぽつとした透明な鉱物・・石英
・花こう岩の中のピンク色や赤みがかった鉱物・・・長石の仲間(カリ長石といいます)
・花こう岩の中の透明な部分は石英、白く透明でない部分は長石、点々と入る黒い部分は
        黒雲母
 


肉眼で結晶の形が見えなくても、透明になるほど薄くして(薄片にして)顕微鏡で見ると結晶がみえてきます。
左写真は,荒船風穴の周辺に見られる安山岩の顕微鏡写真です。右下の横棒が
1mm。写真まん中付近の細かい長方形のものも結晶ですが、小さすぎて肉眼で見たときは結晶の形は見えていないでしょうね。
 こまかな結晶と写真の右や下のグレー
 がかった結晶は長石の仲間(斜長石)

 
                             
薄片制作・写真撮影 中島啓治さん
  

火山灰の中には,これらの鉱物がバラバラの粒になって入っています。後に火山灰の項に少し詳しくのせる予定です
   
<結晶になりやすいものはあるの?>

マグマが冷えるとき、早くから固まる(結晶になる)成分と、なかなか固まらない成分があります。
早くから固まり始めると、時間が長くとれるので、大きめの結晶になることができます。岩石の中にぽつぽつとした四角の結晶ができたりするわけです。
冷えていくとき結晶になる大まかな順番を書いてみます。なんだか高校の地学の教科書みたいですが、晶出順序といいます。

   色のついた鉱物  : カンラン石  輝石  角閃石  黒雲母 


   無色の鉱物     : 斜長石 → カリ長石・石英

宮沢賢治は,これら鉱物たちにもおしゃべりをさせています。「楢の木大学士の野宿」という童話の中でのお話。
  
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 角閃石の入った花こう岩の近くを通りかかると、風化し始めた岩石が、なにやら喧嘩してます。黒雲母が風化で膨らみ始めて,まわりを押しているのです。は角閃石(ホルンブレンド)、は黒雲母(バイオタイト)です。
「変質」の話でも同じ文の一部を載せましたが、今度は鉱物の生まれる順番に着目してみます。  
角閃石→黒雲母の順で誕生したことが、この会話の土台になっています。

角:「・・・略・・お前こそこの頃は少しばかり風を呑んだせいか、まるで人がかわったやうに意地悪に
    なったね」
黒:「はてね、すこしぐらゐ僕が手をのばしたってそれをとやかくお前が云ふのかい。十万二千
  年昔のことを考へてごらん

角:百万千万年、千五百の万年の前のあの時をお前は忘れてしまってゐるのかい。まさか
  忘れ
はしないだらうね。忘れなかったら今になって、僕の橫腹を肱で押すなんてでき
  た義理かい」

黒:「それはたしかに、あなたは僕の先輩さ。けれどそれがどうしたの」
角:「どうしたのぢやないぢやないか。僕がやっと体格と人格を完成してほっと息をつい
  ているとお前
がすぐ僕の足元でどんな声を出したと思ふね。こんな工合さ。もしホンブレンさ
  ま、ここの所で私もちっとばかり延びたいと思ゐまする。どうかあなたさまのおみあしさきにで
  も一寸取りつかせて下さいませ。まあかう云ふお前のことばだったよ。」


角:おや、とにかくさ。それでもお前はかまはず僕の足さきにとりついたんだよ。まあ、
  そんなこと出来たもんだらうかね。もっとも誰かさんは出来たやうさ

黒:あてこするない。とりついたんぢやないよ。お前の足が僕の体かくの頭のとこにあっ
  たんだよ。僕はお前よりももっと前に生まれたジッコさんをたのんだんだよ。今だっ
  て僕はジッコさんは大事大事にしてあげてるんだ。

      (ジッコは磁鉄鉱のこと。わりあい早い時期にできる鉱物です。)
角:さうかい、そんならいいよ。お前のやうな恩知らずは早く粘土になっちまへ

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結晶が大きく育つには、時間が必要です。
左の顕微鏡写真は花こう岩。なんだか粒がそろって大きい感じがしませんか。「地下でゆっくり冷えてできた」岩石なので、それなり大きい粒になります。さらに、早くに結晶になったものは、その鉱物のもともとのきれいな形になります。あとから固まったものは間を埋めるので、そんなわけにはいきません。この写真だけからは、よくわからないかもしれませんが、白く見える長石や石英は間を埋めています。

大間々から渡良瀬川に沿って上流に辿った沢
(そうり)でとれる沢入花こう岩の顕微鏡写真です)




右は角閃石安山岩。早くに結晶になったものは、のびのびときれいな形になっています。
神奈川県の石です。

薄片作成・写真撮影 中島啓治さん

それにしても、顕微鏡で見た岩石ってきれいですね。
写真が色づいているのは、鉱物に色がついているものもありますが、右の写真は、偏光板に挟んでみたための色付きです(岩石顕微鏡にはこの機能があります)。サングラスにも使う偏光板は、変わった性質があるのですね。
ちなみに、セロテープを切って透明な板に
向きを変えながらペタペタ貼り、偏光板に挟んで回転させると、虹色のステンドグラスのような美しい世界が広がります。

 
岩石の中に空洞があり、そこにたまった液体がゆっくり冷えると、大きな結晶ができることがあります。大きな水晶などのようなきれいな結晶ができるわけです。
メキシコの結晶洞窟にできた石膏の結晶も,地下の空洞に液体がたまっていて、長い時間かけて成長したもの、50℃前後の温度が50万年(!)もの間続いた結果だそうです。

 
 
<結晶ってどうやってできるの?>      (ほとんど学校の勉強の世界ですけど・・・・)

これを考えるには、原子の並び方を考える必要があります。
物質には固体・液体・気体という3つの状態があります。例をあげれば、氷・水・水蒸気です。  
液体の中では原子や分子は勝手に動き回っていますが、結晶ではきちんと並んでいます。

   気体では分子が飛びまわっています

マグマ・・・・・・・・・・・・・・・・液体の状態・・・・原子は勝手に動き回っている

岩石(鉱物の集まり)・・・・・固体の状態・・・・鉱物の原子は規則的に並んで場所を変えず、  振動しているだけ

 

マグマが冷えて、岩石になるとき・・・・
    校庭を走り回っている子供たち(液体状態)に「集合!」と言って、ゆっくり待てば
全員がきれいに並んで整列できます(結晶状態)。
     (大きな結晶になる)。
    あまり時間をとらすに「早く並んで。ハイ、そこまで。」と言ったら、きれいに並んだ者もいれば、まだの子もいるでしょう。
  (火山岩の中の斑晶と石基の関係は、こんな感じでしょうか)。
    いきなり「その場で止まれ!」と言われたら、規則性なく、ぐちゃぐちゃの状態になります。
これがガラスです。ガラスは原子の並び方に規則性がないのです。これを非晶質とよびます。
というわけで、急速に冷えた時にガラスができます。
石器の材料に使われた黒曜石は、天然ガラスです。

ミネラルフェアー大好きの方なら、鉱物の種類や宝石のきれいさについてたくさんのことをご存知でしょう。宝石にも興味なく、きれいな鉱物もそれほど見たことのない私は、鉱物についてはこれくらい書いておくことで、ご勘弁願います。
 
 


 


 
 


 

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